インプラント周囲炎とは?症状と原因、予防と治療のポイント
インプラント治療を受けた後に発生するトラブルとしてよく耳にする「インプラント周囲炎」。端的に言えば、インプラントの歯周病です。
今回は、インプラント周囲炎について、どのような病気なのか、その症状と原因、予防から治療のポイントまで解説します。
インプラント周囲炎を予防したい方、どのような病気なのか知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
インプラント周囲炎とは
インプラント周囲炎とは、冒頭でも解説した通り「インプラントの周りで起こる歯周病」のこと。
インプラントは歯ではないため、歯周病とは区別され「インプラント周囲炎」と表現されています。
インプラント周囲炎が引き起こされると、インプラント周辺の組織に悪影響があるだけではなく、最悪の場合骨まで溶け、インプラントが脱落してしまうケースも。
原因を知り、しっかりと予防していくことが大切です。
インプラント周囲炎の症状の進行
インプラント周囲炎の進行は、2段階で表現されます。
それぞれについて、解説します。
- 1段階目:インプラント周囲粘膜炎(軽度)
- 2段階目:インプラント周囲炎(炎症がさらに進行した状態)
インプラント周囲粘膜炎
インプラント周囲粘膜炎とは、インプラントの周囲にある粘膜で炎症がおきている状態です。
インプラントの義歯と歯周ポケットの間にプラーク(歯垢)が貯まり、細菌感染が起きていることが原因です。
インプラント周囲粘膜炎はインプラント周囲炎の第一段階であり、この段階で気づき、治療することが非常に大切です。
インプラント周囲炎
インプラント周囲炎は、インプラント周囲粘膜炎からさらに進行し、歯肉だけではなく歯槽骨(歯の根を支える顎の骨)まで炎症が広がっている状態を指しています。
炎症が広がっていくと、歯肉だけではなく顎の骨まで吸収が進んでしまい、徐々にインプラントを支えられなくなってしまいます。
そうなると、インプラント自体のぐらつきや脱落が起きるため、早急な治療が必要です。
インプラント周囲炎の症状
インプラント周囲炎の主な症状は、以下の通りです。
- 歯肉の腫れ・出血
- 歯茎が痩せる・隙間ができる
- 歯肉の膿み
- インプラントのぐらつき、脱落
- 歯肉や顎の骨の痛み
歯肉の腫れ・出血
インプラント周囲炎になると、歯肉が腫れ、出血することがあります。
歯肉がきれいなピンク色でひきしまっている状態が理想ですが、赤みを帯び、ぶよぶよとした感触になったり、歯磨きの際に出血したりする状態は、要注意です。
痛みがなく腫れていることもあるため、日々鏡などで状態をチェックしましょう。
歯茎が痩せる・隙間ができる
インプラント周囲炎が進行していくと、歯肉の組織が破壊され、退縮する可能性があります。
だんだんと歯肉が下がっていくことにより、インプラントの義歯やインプラント体が露出することも。
また、腫れが悪化すると歯周ポケットが深くなり、隙間ができることでさらにプラークが貯まりやすくなる悪循環となります。
歯肉の膿み
インプラント周囲炎がひどくなると、細菌感染により膿が歯肉から出てくることがあります(排膿)。
膿からは独特の臭いが発生するため、口臭もきつくなったことで気が付くケースもあるようです。
インプラントのぐらつき、脱落
インプラント周囲炎がひどくなると、歯肉が破壊されるだけではなく、歯槽骨まで炎症が広がり、インプラント体と骨の結合部分が吸収されてしまい、ぐらつきや脱落が起きやすくなります。
ぐらつきは徐々に進行するため、気のせいと放置してしまうと危険です。
歯肉や顎の骨の痛み
インプラント周囲炎はひどく進行するまで痛みがほとんどなく、自覚症状がほとんどないのが特徴です。
痛みに気が付いた時にはすでに手遅れで、歯肉や顎の骨の状態を改善するためにはインプラントを除去して治療するしかないケースも。
痛みが出た時点で絶対に放置せず、すぐにかかりつけの歯科医院を受診しましょう。
インプラント周囲炎による影響・リスク
インプラント周囲炎が引き起こされてしまうと、インプラント周辺組織がダメージをうけるのはもちろんですが、それ以外にも下記の影響・リスクが考えられます。
歯周病悪化のリスク
インプラント周囲炎が進行すると、周囲の歯周病も悪化するリスクがあります。
インプラント周囲炎は名前こそ違えど、原因となるのは歯周病菌。
インプラント周辺が歯周病菌に感染し、炎症が広がることで、周りの歯まで影響を受けて歯周病が進んでしまいやすくなります。
インプラント治療箇所以外の歯への影響
インプラント治療を行った箇所がインプラント周囲炎になると、インプラントやその周辺組織が正常に機能しなくなり、周囲の歯への負担が大きくなります。
たとえば、以下のような影響が考えられます。
- かみ合わせ悪化によるほかの歯への負担増大
- インプラント周辺組織が下がり、強く噛んだ時に既存の歯に力がかかりすぎてしまう
インプラント周囲炎は、その場所だけではなく他の歯への影響も無視できません。そうならないよう、きちんとケアをして予防していくことが大切です。
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インプラント周囲炎の原因
インプラント周囲炎になってしまう原因は、主に以下の3点です。
- セルフケア、定期メンテナンスを怠った
- 貧血や糖尿病などのリスク要因により悪化
- タバコなどの悪い生活習慣
セルフケア、定期メンテナンスを怠った
ブラッシングや歯間ブラシなどのセルフケアや、歯科医による定期メンテナンスを怠ると、インプラント治療を行った周辺に汚れがたまり、インプラント周囲炎になってしまいます。
インプラントはもとからある歯とは異なり、歯根膜がないことから、周囲への血液供給が少なく、感染しやすい面があります。
よって、通常の歯よりも、気を付けてメンテナンスを行う必要があります。
貧血や糖尿病などのリスク要因により悪化
貧血や糖尿病など「インプラント周囲炎のリスク要因」となりうる病気や全身状態の場合には、インプラント周囲炎となりやすくなります。
具体的に言うと、貧血の場合、常に血中の酸素が欠乏した状態となるため、治療部位の治癒が遅くなるほか、骨の結合がうまくいかなくなるケースも。
そんな環境のなかでインプラント周辺が最近感染を起こすと、通常であれば自浄作用で治っていくような感染レベルであっても、悪化してしまいます。
糖尿病も免疫力が落ちるため、根本原因は違えど、インプラント周囲炎となるリスク要因です。
他にもリスク要因はありますので、持病がある方は、インプラント治療を受ける際に担当医にしっかりと伝え、持病のケアも含めてどのようにインプラント治療を進めるか、綿密な計画を立てましょう。
タバコなどの悪い生活習慣
タバコは歯周病やインプラント周囲炎を引き起こすリスク要因として有名です。
タバコを吸わない方に比べ、タバコを吸う方はインプラント周囲炎になるリスクが数倍にもなると言われています。
喫煙習慣により、たとえば以下のような悪影響があります。
- ニコチンの作用による血管収縮(血流悪化)
- 一酸化炭素による酸素欠乏
- 免疫機能の低下(血中の白血球の機能低下)
このほかにも、喫煙習慣自体が健康被害を引き起こし、その結果免疫力が低下して歯周病やインプラント周囲炎リスクを増大させると言えます。
インプラント治療を受ける場合は、まずは喫煙習慣を見直し、どうしても改善が難しい場合は禁煙外来の受診がおすすめです。
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インプラント周囲炎の治療方法
インプラント周囲炎は完治が難しく、様々な治療を併用していきます。主な治療として、よく使われるのは以下の方法です。
- プラーク、歯石の除去(OMTC)
- 消毒・洗浄(薬品使用)
- インプラント除去
- 抗生物質での化膿止め
- 炎症部分を切除
プラーク、歯石の除去(PMTC)
インプラント周囲炎にかかっている場合、周辺組織の細菌感染が進んでおり、その原因の多くはプラークや歯石によって汚染されていること。
よって、基本の治療として、まずはプラークや歯石を、機械を使って除去します。
歯科医院で専用の機材を使用し、プロによってクリーニングを行うことを「PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)」と呼びます。
清掃用の機材やフッ素入りのペーストを用いて、隅々まで清掃を行う治療法です。
消毒・洗浄(薬品使用)
歯垢や歯石を除去するほかに、薬品を使ってインプラント周囲炎の周辺を消毒・洗浄します。
インプラントと歯茎の間の溝(歯周ポケット)に薬剤を入れ、殺菌しつつ、口腔内の細菌を洗い流します。
患者本人に薬剤を使ってうがいをしてもらい、殺菌・除菌することもあります。
抗生物質での化膿止め
細菌感染を抑えるために、インプラント周囲炎にかかっている部位に抗生物質の薬を入れ込む(インプラントと歯肉の間に挿入)するほか、経口で投与する治療も行います。
直接患部に塗布するだけではなく、身体の内側から抗生物質を行きわたらせ、患部が化膿してしまうのを止める目的です。
炎症部分を切除
炎症を起こしている組織が炎症性肉芽組織(不良肉芽)となっている場合、歯肉を切り開いて除去する必要があります。
外科的に炎症組織を除去するため、患者への負担も大きいですが、悪い組織を取り除ける効果的な方法です。
切除後に、露出しているインプラント体も清掃し、まわりの炎症組織をきれいにした上で、歯茎を縫合します。
切除がうまくいかず不良組織が残っていると、そこからまた炎症が広がるため、丁寧な手術が必要です。
インプラント除去
インプラントを支える周辺組織が大きく破壊され、維持が難しいと判断された場合、インプラントそのものを除去します。
除去したうえで、上記のような治療法を行っていきます。
インプラント周囲炎が進行しすぎてしまうと周辺の歯や組織にも影響が出るため、早急に治療を進めるには、状況によりインプラント除去が必要です。
インプラント周囲炎を予防するには
ここでは、インプラント周囲炎を予防する方法を解説します。
- セルフケアを丁寧に行う
- 定期メンテナンスを確実に受ける
- 生活習慣改善(リスク要因を減らす)
セルフケアを丁寧に行う
インプラント周囲炎は、細菌感染によって引き起こされるもの。
よって、細菌が増える原因となるプラークや歯石が残らないよう、毎日のセルフケアを徹底することが大切です。
ブラッシングや歯間ブラシ、液体歯磨きなど歯科医師の指導に沿って、しっかりとセルフケアを行い、口腔内を清潔に保ちましょう。
定期メンテナンスを確実に受ける
いくらセルフケアを頑張っていても、完璧にプラークコントロールするのは不可能です。
よって、歯科医院での定期メンテナンスをしっかりと受け、定期的な清掃や点検・調整を行うことが非常に重要です。
インプラント周囲炎は初期の段階では自分では気が付きにくいものですが、歯科医でのメンテナンス時に発見・早期治療に至るケースもあります。
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生活習慣改善(リスク要因を減らす)
インプラント周囲炎には、リスク要因となる全身状態や病気、生活習慣(喫煙など)があります。
インプラント周囲炎を防ぐためにも、喫煙などの悪い生活習慣を改め、改善していくことが大切です。
また、免疫力の低下や貧血もインプラント周囲炎には大敵ですので、睡眠をしっかりととり、食事の栄養バランスにも気を配るのがベストです。
まとめ
インプラント周囲炎は、インプラントの保存率を下げてしまう「インプラントの大敵」です。
インプラント周囲炎になる主な原因は、免疫の低下や口内環境の悪化による細菌感染によるもの。
一度インプラント周囲炎にまで発展してしまうと、完治するのは難しいため、予防が非常に重要です。
インプラントはメンテナンスが面倒というイメージがあるかもしれませんが、逆にメンテナンスさえしっかり行えば保存率も高く、おいしく食事を楽しみ、生き生きと生活するための心強いパートナーです。
インプラント治療後はケアを徹底して行い、インプラント周囲炎を予防していきましょう。
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