インプラントの技術は進化する~国内外で見るインプラント技術の現状
スウェーデンで始まった歯科インプラント治療は、今は日本を含め世界中に広まり、その治療技術は日々進歩し続けています。
「インプラントは魅力的だけどリスクやトラブルが怖い」というイメージも一部にあるようですが、最新の知識や治療技術を用いればそこまで恐れるものではなくなっています。
今回は国内外で歯科インプラントの治療技術がどのような進化を続けているか、最新技術についてご紹介します。
世界の歯科インプラント治療技術|最新技術の共有化
最新のインプラント治療技術を学ぶカンファレンスを開催
歯科インプラント治療はブローネマルク教授の発見によってスウェーデンから始まり、日本はもちろんヨーロッパやアメリカでも広く行われています。特にスウェーデンやアメリカは、歯科インプラント治療における先進国といわれています。
歯科インプラントの治療技術は、世界的な規模でのカンファレンスが定期的に開催され、各国は常に最新の情報や治療技術を共有化しています。例えば治療におけるトラブルを未然に防ぐためのカンファレンス、歯科インプラント先進国の症例を紹介するカンファレンスなどがあります。
日本も歯科インプラント治療に関するカンファレンスに参加することで最新の情報・技術を学び、治療に役立てています。
歯科医療の中で進化し続ける歯科インプラントの治療技術
CT技術の精度向上で手術の安全性がアップ
歯科インプラントの治療技術は常に進化続けてきましたが、ここ10年で特に目覚ましい技術発展がありました。ひとつはCTスキャン技術の精度がアップしたことです。
従来は二次元のレントゲン写真により治療計画を立てていましたが、CTスキャン技術の向上によって三次元で現状を把握できるようになり、より安全な手術を行えるようになりました。
画像診断や手術のシミュレーションの精度があがったことで、最新の歯科治療では、ほぼ治療計画通りの位置・方向に歯科インプラントを埋入できるようになっています。
歯科インプラント治療対象の幅を広げた骨造成技術
最新の歯科インプラント治療では、骨造成の技術が向上したことも進化のひとつです。
骨造成とは骨が少ない・薄いなどの問題があり、そのままでは歯科インプラントを埋め込めない場合に骨を増やしたり移植するといった治療技術です。
従来は歯科インプラントの手術を行うにあたり、土台となるアゴの骨(歯槽骨)がしっかりしていることが絶対条件でした。ですが骨造成技術の向上により、骨の状態を改善できれば今まで歯科インプラントを埋め込めないと判断された人でも、治療できる可能性が広がっています。
歯科インプラント治療における最新技術の研究・開発
歯科インプラントの老化そのものを防ぐ「光機能化技術」
歯科インプラント治療は、時代に合わせて常に最新技術の研究・開発が進められています。
例えば最新技術のひとつには、歯科インプラントそのものの老化を予防する方法があります。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の小川隆宏周信教授による研究によって生まれた方法で、「光機能化技術」とよばれる技術です。光機能化技術では、歯科治療において骨とチタンの接着能力を向上させることが可能になりました。
歯科インプラント素材・チタンが持つ長所と短所
最新技術・光機能化技術がうまれたのは、歯科インプラントに使われる素材・チタンが持つデメリットが影響しています。
チタンは歯科インプラント治療以外に、人工関節やペースメーカー治療にも使用されることがあるほど、骨と結合しやすくアレルギーが起こりにくいという大きなメリットがあります。
ただ、歯科インプラント素材に適しているものの、素材自体は時間の経過とともに表面の性能が落ちるという欠点を持っています。
一般的に、チタンは製造して1週間後から、徐々に骨となじむ力や接着力、骨をつくる細胞を引き寄せる力が落ちていきます。製造してすぐの最新ともいえるチタンは、水とのなじみがよい「親水性」の状態にあります。しかしやがて時間の経過とともに「疎水性」に変化し、水となじみにくく、はじくようになります。
実験でも、工場で作られた直後の新鮮なインプラントの周囲には多くの骨ができますが、時間が経つと骨の量は半分に低下することが分かっています。
したがって本来は、よりインプラントと骨をスムーズに定着させるには、製造からなるべく時間が経っていない状態のインプラントを患者に提供することが望ましいです。ですが現実には技術的になかなか難しく、これまでは工場で製造後、保管するうちに数か月経過するケースが一般的でした。
光機能化技術|チタンを新鮮な状態に回復する
最新技術である光機能化技術は、歯科インプラント素材・チタンが持つ「時間が経つと骨と接着する力が落ちる」というデメリットを克服する治療技術です。具体的には一定の波長の光を複数のインプラントに照射するという方法です。
光機能化技術によって、時間が経ち接着力が落ちたチタンを、製造直後の新鮮な状態まで回復させることが可能になり、少ない骨量でも骨ができ、強く定着できるようになっています。
実際、動物実験や人の細胞を使った実験でも光機能化技術の治療効果は証明されていて、骨の接着面積を98%以上に向上させることが可能といわれています。従来の接着面積は40~60%程度だったので、最新技術によって格段に治療効果がアップしたといえます。インプラントと骨とがしっかり定着すれば、手術の安全性アップにもつながります。
光機能化技術のほかに、歯科インプラント治療では傷口の治癒を早める方法も研究されています。こうした最新技術が確立されることで、より安全な歯科インプラント治療を行うことにつながっています。
歯科治療以外の分野でもインプラント技術の活躍が期待
歯科インプラントの技術は歯科治療だけに留まらず、ほかの最新治療にも役立つ可能性を秘めています。
例えば骨伝導補聴器を歯科インプラントとともに埋め込む治療や、骨折治療において骨の代替として使用するなど、技術の活用方法が期待されています。
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国内における歯科インプラント治療や技術の現状
先進国に比べ日本の歯科インプラント治療は発展途上
日本に歯科インプラントの治療技術が導入されたのは、1960年ごろといわれています。当時は歯科インプラントに対し否定的な意見が多かったようですが、現在は普及が進んでいます。歯科インプラント治療が普及した背景には、歯科インプラントの治療技術が向上により、見た目の仕上がりや安全性が高まったことによるものと考えられます。
とはいえ、日本の歯科インプラント治療はアメリカやスウェーデンなど先進国に比べると10倍、ドイツの5倍ほど遅れをとっているといわれ、まだまだ発展途上というのが実情です。
歯科インプラントの治療技術・情報に関するカンファレンスには、日本も参加し常に最新の知識を吸収しています。しかし日本では、海外で開発された最新技術を国内に持ち込む場合、本当に安全なのか、治療を行っても問題ないかについて再確認を行います。技術の導入まで時間がかかるわけですから、一般に普及するまでにはさらに時間が必要です。一般的に、個人の歯科医院まで最新の治療技術が広まるのは、国内に導入されてから10年以上は先になるといわれています。
以前は歯科医の技術的な問題からトラブルも
残念なことに、過去には歯科インプラント治療をする中で、歯科クリニックの設備、歯科医の技術が未熟なことから事故へとつながったケースもありました。
例えば不衛生な手術環境から細菌感染を起こし、骨吸収(骨が溶ける)が起こって歯科インプラントを支える土台からダメになるというものです。
歯科インプラント治療を受けた人の中には、手術中、麻酔をかけているにもかかわらず突然激しい痛みに襲われた人もいます。原因は上アゴの骨に固定されるはずだったインプラントが、骨を突き抜けて奥にある「上顎洞」という空洞部分に落ちたことによるものだったそうです。
ほかにも、下アゴの歯をインプラント治療する場合に間違った位置・方向に歯科インプラントを埋入し、神経や血管を損傷するトラブルが起こったケースもありました。
トラブルが起こっても、再手術により無事に治療ができることもありますが、中には死亡事故に至ったケースもあったようです。
ただ、近年は歯科医の技術や検査機器の精度向上により、歯科インプラント治療におけるトラブルやリスクは、ゼロとまではいかずとも減少傾向にあります。
歯科医を取り巻く経営環境もインプラント治療に影響
事故やトラブルが起こった原因の一端には、日本では歯科インプラント治療を行うにあたり、歯科医師以外の特別な資格が必要ないことが影響していると考えられます。しかも以前は、歯科大学でも歯科インプラント治療についての教育や技術指導が行き届いていない部分がありました。
加えて、歯科医を取り巻く経営環境の変化も影響を与えていたようです。近年、歯科医院の開業数はコンビニより多く、供給過多な状況から1クリニックあたりの1日の平均患者数は減少傾向にあります。特に都市部を中心に経営が苦しいクリニックが増えているといわれています。そんな中、歯科医が独自に治療費用を設定できるインプラント治療は貴重な収入源となるケースが多かったようです。
歯科医であれば誰でもインプラント治療を始められる状態だったことで、ごく一部ではあるものの、経営を安定させるべく知識や技術が未熟なまま治療を始める医師もいたようです。
歯科医に対する教育や歯科インプラント治療の技術指導を強化
現在は歯科医を取り巻く環境も少しずつ変化し、積極的に最新技術を学ぶ歯科医は多く存在します。歯科大学でもインプラントの基礎から解剖学、歯周病、噛み合わせなど治療に関わる総合的な指導が行われ、実習を通じて技術指導を行うなどの動きが出ています。
インプラント治療の専門医を認定する「日本口腔インプラント学会」も、「歯科インプラント治療の専門医」には、100時間の研修修了と試験に合格した歯科医を認定しています。歯科大学や学界の動きは、「歯科インプラント治療には歯科医の幅広い知識や高度な技術が必要」と認識されるようになった証といえます。
一方で国側の厚生労働省は「インプラント治療は健康保険適用外の自由診療なので、あくまで患者と医療機関との契約に基づいて行われるものであり、強制的な指導はできない」という立場を表明しています。ですが大学や学会の動向を受けて、トラブルが起こっているのは事実なので、安全面や患者への配慮に問題がないか情報収集を行っています。
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インプラント治療のリスクと起こり得るトラブル、理解しておくべき危険性
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歯科インプラント治療は専門知識と技術力が必須
安全なインプラント治療のために信頼できる歯科医を選ぶ
歯科インプラント治療には歯科医の幅広い知識と高度な技術が必要です。同時に、患者側も無用なトラブルを防ぐために信頼できる歯科医を選ぶことが大切です。
依頼する歯科医にどの程度の技術力があるかということを、患者側が見分けるのは難しいことです。ただ、いくつか目安になるものはあります。
まずは歯科医がこれまでどの程度歯科インプラント治療を行ってきたかという、経験や実績から技術力をはかることができます。ほかにも親身になって相談に乗ってくれるかどうかが判断材料のひとつになることもあるでしょう。例えば歯科インプラント治療以外に、ブリッジや入れ歯などの治療方法についても提案があるか、それぞれの治療法のメリットやデメリットを平等に教えてくれるかどうかなどです。
実際に歯科インプラント治療に入る前の段階で、治療計画や費用、トラブルのリスクについて丁寧な説明があるかもチェックしてみてください。技術的に分からないところがあれば、理解できるまで説明してもらい、納得した上で歯科インプラント治療に進みましょう。
歯科医の技術力とともに歯科クリニックの設備もチェック
歯科医の治療技術だけでなく、最新のCTスキャン技術の導入をはじめ検査機器が充実しているか、設備面も重要なポイントです。性能の高い検査機器が揃っていれば、歯科インプラント埋入箇所の骨量をはかり、血管や神経、骨の位置を把握することが可能です。結果的に手術中の歯科インプラント埋入位置・方向に関する技術的なトラブルを防止しやすくなります。
細菌感染のリスクは、口の中という細菌が多い場所に歯科インプラントを埋め込む以上、何かの拍子にばい菌が入る可能性はあります。それでも感染リスクを減らすために、手術室が清潔に保たれているか、滅菌システムが備わっているかなど、歯科クリニック側の治療設備もチェックしましょう。
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インプラント治療の安全性と安全性を高める歯科医院の選び方
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常に研究・開発が進む歯科インプラントの治療技術
専門性が高いインプラント治療は歯科医の知識・技術力も重要
歯科インプラント治療は世界中で行われ、常に最新の情報や治療技術の共有化が行われ、進化し続けています。
日本だけを見ると、歯科インプラント先進国に比べ差がある部分もありますが、以前に比べると歯科医への技術指導が積極的に行われている状態です。
歯科インプラント治療は治療期間が長く、健康保険が適用外になることで費用が高額になりやすいですが、成功すれば快適な生活を送れる可能性は高いです。
いずれにせよ専門性が高い治療なので、安全に治療を終えるには歯科医選び、歯科クリニック選びが重要です。私たち患者側も歯科医の話をただ聞くだけでなく、検査機器や歯科クリニックの設備の充実、歯科医の技術力なども吟味し、しっかり理解し納得することが大切です。
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