上顎の奥歯のインプラント治療は難しい?治療の注意点や対策法
高い機能性・審美性で治療を選択する人が増えているインプラント。今でこそ上顎・下顎問わず治療ができるようになりましたが、一昔前は上顎の奥歯を治療することは難しかったようです。
今回は上顎の奥歯のインプラント治療が難しかった事情や現在の状況、実際に治療をする場合に気を付けたいトラブルや予防策などについてご紹介します。
上顎の奥歯はインプラント治療できる?
かつては困難だった奥歯のインプラント治療
以前のインプラント治療では、上顎の奥歯へインプラントを埋め込むことが難しいといわれていました。上顎の奥には、上顎洞(サイナス)と呼ばれる、骨がない空洞があるからです。
一般的なインプラントでは無理に埋め込むとインプラントが突き抜けてしまい、十分な固定できないとされていました。
上顎の骨が下顎に比べて薄く、粗くて柔らかい構造であることも、治療を困難にした理由のひとつです。仮にインプラントを埋入しても、使っていくうちに上顎洞内に脱落する可能性が高く、インプラントの主な素材であるチタンとも十分な結合をしづらいと考えられていました。
以上のように、上顎洞があることや上顎の骨の構造から、かつては特殊な治療を除いて上顎の奥歯のインプラント治療はできない、治療しても成功率が低いというのが一般的な歯科医の認識だったようです。
現在は安全に上顎奥歯のインプラント治療が可能
治療が難しいとされていた上顎の奥歯へのインプラント治療ですが、現在はほかの部位と同じように治療が可能です。成功率についても下顎のインプラント治療と同程度という結果があるようなので、安心して治療が受けられそうです。
上顎の奥歯へのインプラント治療が一般的に行われるようになったのは、インプラント製品自体が改良され、上顎のように柔らかい骨とも強く結合できるようになったことが要因のひとつといえます。
加えて、安全にインプラントを埋入するための、歯科用CTやシミュレーションソフトなどの医療機器が開発され、普及したことも大きいと考えられます。もちろん歯科医自身の知識や治療技術が向上していることも影響しているでしょう。
治療技術、製品の進歩によって、現在は治療部位が上顎の奥歯だからといって、インプラントの埋入に支障が出る可能性は低いと考えられます。
インプラント治療が難しい場合も骨造成でカバー
もうひとつ、上顎の奥歯のインプラント治療を向上させた要因として、治療に使用する骨補填材や移植材などの、インプラント歯科材料が進歩したこともあげられます。
前述したとおり上顎には上顎洞があり、人によっては元々の骨の厚みが少ない人もいます。そのままインプラントを埋め込んでも上顎洞へ突き抜けたり、脱落する可能性がある場合には、安全に治療をするために骨の再生治療(GBR法)を行います。
骨の再生治療(GBR法)は、虫歯や歯周病などが原因となり、抜歯をしてからインプラント治療をするケースでも行うことが多いです。通常と違い、抜歯した部分は骨がない状態になるので、インプラント治療をしても治療後の見栄えが悪かったり噛み心地に違和感を生じることがあるからです。
中にはそのまま治療するケースもありますが、骨の再生治療をする場合は抜いた歯の大きさによって再生方法が決められるのが一般的です。
具体的な骨の再生治療(GBR法)はいくつか種類がありますが、一般的には骨の状態に合わせ、サイナスリフトやソケットリフトなどの上顎洞底挙上術を行うことが多いです。上顎洞底挙上術は、口の中から上顎洞の粘膜を押し上げて隙間を作り、できたスペースに自家骨などの補填材・移植材を詰めて、インプラント埋入に必要な骨の厚みを作り出す方法です。
サイナスリフトは粘膜を切開し、上顎洞粘膜と上顎洞底の間に骨補填材などを入れる方法です。一方、ソケットリフトは粘膜を切開せず、インプラント埋入時に上顎洞底に穴を開け、上顎洞粘膜を持ち上げてインプラントを埋め込む方法です。ソケットリフトは切開をしない分傷口が小さく、処置時間も短いのが特徴です。
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上顎奥歯のインプラント治療で起こりうるトラブル
インプラント術後の痛みや腫れ
インプラント治療は歯肉を切開する手術によってメスを入れるため、術後数日~1週間程度は痛みや腫れを生じることが多いです。
手術時はドリルで骨に穴をあけますが、強く押し付けすぎることで過熱状態、つまりオーバーヒートして、骨がやけどしたような状態になってしまうこともあります。特に骨造成など特殊な治療を行った場合は、痛みが出やすいといわれています。
ただし、上顎の奥歯をインプラント治療したあと、腫れや痛みが1週間以上続くなどの症状が出た場合は、炎症などのトラブルが起こっている可能性が高いです。すぐに歯科医院へ相談しましょう。場合によっては耳鼻科での治療が必要になることもあります。
インプラントの脱落
上顎の奥歯のインプラント治療で起こりうるトラブルには、インプラントの脱落もあります。
脱落はさまざまな原因が考えられ、ドリルによるオーバーヒートでインプラントが骨と結合しづらくなって起こることもあれば、ドリルであけた穴が大きすぎて起こることもあります。骨の厚みが不足したまま治療したことが原因になる場合や、インプラントの埋入位置や角度が不適切で無理な力がかかり、脱落につながることもあります。
その他、患者自身の術後の過ごし方によって脱落につながることもあります。例えば治療した部位を舌や手で触ることや、歯ぎしりや食いしばりをすることなども脱落を引き起こすことがあるので注意しましょう。
インプラント周囲炎
インプラント手術が成功しても、治療後のメンテナンスを怠るとインプラント周囲炎を引き起こす可能性があります。インプラント周囲炎とは埋入したインプラントの周囲が細菌感染を起こすことです。
トラブルを避けるには、治療が完了しても日々のセルフケアや、定期的に歯科医院でクリーニングや噛み合わせのチェックなど、定期検診を受けることが大切です。
インプラント周囲炎は初期段階で自覚症状がないことも多く、気づいたときには重症化しているケースもあります。インプラント周囲炎も、症状が進行するとインプラントの脱落につながる恐れがあるので注意しましょう。
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上顎奥歯のインプラント治療で注意したい症状
上顎洞炎のリスクと原因
上顎の奥歯にインプラントを埋入する場合、気を付けたいのが上顎洞炎の発症です。上顎洞炎とは、上顎の奥、鼻の横(鼻腔)の左右両方にある上顎洞で起こる炎症のことです。
炎症が起こる原因は、インプラント埋入するとき上顎洞を突き抜けてしまったり、粘膜を傷つけた場合などさまざまです。治療が無事に完了しても、何らかの事情で上顎洞内へインプラントが脱落したり、インプラント周囲炎の炎症が上顎洞まで広がって起こる場合もあります。
その他、上顎洞の下方にある歯や組織が虫歯、歯周病などになって炎症を起こす場合や、抜歯が引き金となり、口と上顎洞がつながったり、根や歯が上顎洞内に入り込んで起こる場合などもあります。
副鼻腔炎、蓄膿症とも呼ばれる上顎洞炎
上顎洞は全部で4つある副鼻腔の中で、一番大きい副鼻腔です。上顎洞を含む4つの副鼻腔は鼻とつながっており、吸い込んだ空気は副鼻腔に流れ込む仕組みになっています。上顎洞が副鼻腔のひとつであることから、上顎洞炎は副鼻腔炎とも呼ばれるほか、慢性の副鼻腔炎になると蓄膿症とされることもあります。
上顎洞炎の症状
上顎洞炎が起こると、鼻に違和感があったり、痛みや腫れなどの症状が出るのが一般的です。インプラント周辺の組織で炎症を起こした場合は、インプラントと歯肉の間から膿が出てくることもあります。
炎症が広がると、鼻からも膿が出ることがあります。強い痛みや腫れなどの症状が出たときや、1週間以上症状が継続していて経過が変わらない場合などは、すぐに歯科医院へ相談しましょう。
<歯が原因の場合に起こる上顎洞炎の症状>
- 鼻水、鼻づまり、鼻血
- 歯茎や鼻から臭いがあり、黄色や緑色の膿が出る
- 歯茎が腫れ、触ると痛む
- 目の下の腫れる、ほほが痛む
- 痛み止めでもおさまらない強い痛み
- 歯が浮く、噛み合わせた際に痛みを感じる
- 歩行時に鼻の横が響くような違和感を感じる
- 目の奥が重い、頭痛がする
上顎洞炎の治療と対策
上顎洞炎を起こした場合は、炎症や痛みの緩和をはかるため抗生剤や消炎鎮痛薬を服用したり、上顎洞の洗浄を行うことが多いです。合わせて原因となった歯の治療も行いますが、改善できない場合は抜歯をすることもあります。場合によっては埋め込んだインプラントを除去したり、手術が必要になる場合もあります。
さまざまな原因から発症する上顎洞炎ですが、インプラント治療では骨の再生治療(GBR法)により骨の厚みを補い、炎症の発生を防ぐのが一般的です。手術中にインプラントの突き抜けや粘膜が傷つくのを防ぐためです。
ただし虫歯やインプラント周囲炎などから上顎洞炎が起こる場合もあるので、日々のセルフケアや定期メインテナンスを行うことも大切になるでしょう。
インプラント治療による上顎奥歯のトラブルを防ぐには
治療を受ける歯科医の見極めは慎重に
インプラント治療は手術でメスを入れる以上リスクは伴うものです。ですが、まずはトラブルを起こさないためにも、確かな技術力を持った歯科医を見つけることが第一です。ドリルで穴をあけるときの大きさや力の加減はもちろん、上顎洞底挙上術を行う場合なども、歯科医の技術力が問われるからです。
特に骨の再生治療(GBR法)でサイナスリフトをする場合は、粘膜を切開するため失敗すると骨補填材が定着しにくくなります。インプラントを埋入しても固定が難しく、少しの力でインプラントが突き抜ける不安も出てくるでしょう。粘膜を傷つければ上顎洞炎が起こるリスクも生まれます。
技術力に加えて、丁寧な診療が期待できるかどうかも重要です。患者の相談を親身になって聞いてくれたり、上顎洞炎など治療上のリスクについて丁寧に説明してくれる歯科医であれば、安心感にもつながるはずです。
歯科医院の医療設備や衛生環境も確認を
上顎の奥歯にインプラントを埋入する際は、治療トラブルを防ぐために術前に骨の厚みや周囲の歯の状況を正確に把握することも大切です。歯科用CTなど、治療設備が整った歯科医院なら、インプラントの埋入位置や角度もシミュレーションソフトなどで綿密な計画が立てられるはずです。
インプラント周囲炎については、手術器具や設備が不衛生なことで引き起こすこともあります。手術室の有無や滅菌管理がしっかり行われているかなどもチェックしたほうがいいでしょう。
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医療技術の進歩で上顎奥歯もインプラント埋入が可能
インプラント治療は信頼できる歯科医院で受けよう
以前はインプラント埋入が難しかった上顎の奥歯ですが、現在は問題なく治療が可能です。背景には、インプラント製品の品質向上や、高性能な医療設備の普及、骨の再生治療の技術などがあります。
とはいえ、手術をする以上インプラントの突き抜けや脱落、上顎洞炎などさまざまなトラブルのリスクがあります。術後は痛みや腫れが起こることは多いですが、長期間違和感や症状が続く場合は早めに歯科医院に相談しましょう。
何より、安心して治療を受けるには信頼できる歯科医院で見つけることが大切です。上顎の奥歯のインプラント治療におけるトラブルは、歯科医の技術力が影響することも大いにあるからです。信頼できる歯科医かどうか、治療設備や衛生管理まで含めてじっくり見極めてから治療に進みましょう。
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